鉛筆の芯に使われる黒鉛は、炭素原子のシートが何層も重なったものだ。その一層、厚さ一原子分のシートがグラフェンである。こんな身近な物質から取り出した薄い膜の中で、低いエネルギーの電子は、質量を持たない粒子のように振る舞う。どうして一枚の炭素のシートから、そんな性質が生まれるのだろう。
電子の波の形やエネルギーは、原子同士のつながり方に左右される。グラフェンでは、一つの炭素が三つの隣と結びつき、蜂の巣の網目を作っている。このつながりと繰り返しを式にすれば、電子の波やエネルギーを計算する土台ができる。グラフェンの話は、この蜂の巣を読み解くところから始めよう。
繰り返しの位置は、模様をずらして重ねると見つかる。すべての原子が重なれば、動かした先にも同じ並びがあるということだ。まずは炭素原子を一つ選び、隣の原子に向かって、炭素間距離 $a$ の分だけ蜂の巣全体をずらしてみよう。
原子の半分は別の原子に重なるが、残りの半分は六角形の真ん中に来てしまう。三本の結合に注目すると、一本が上を向く原子と、一本が下を向く原子がある。上向きの方を下向きの方に重ねても、結合の向きが合わないのだ。
では、上向きの原子から、別の上向きの原子へずらすとどうなるか。今度は模様全体がぴったり重なる。この上向きの原子だけを拾っていくと、正三角形を敷き詰めた網目が見えてくる。これが三角格子である。下向きの原子だけを拾っても、同じ三角格子が少しずれた位置に現れる。
上向きの方をAサイト、下向きの方をBサイトと呼ぶことにする。どちらも炭素だが、周りの結合の向きが違う。三角格子の各点にAとBを一つずつ置くと、あの蜂の巣ができあがる。
蜂の巣全体は、Aと、その真上のBを一組にして繰り返せば作れる。この二点を彫った判子を考えよう。押すたびに、AとBの組が一つずつ増えていく。
一つのAを原点に取り、右上のAへ向かう矢印を $\mathbf{a}_1$、左上のAへ向かう矢印を $\mathbf{a}_2$ とする。この二本を二辺にして、菱形の判子を作る。Aの印を各Aサイトに合わせて、同じ向きで押していくと、菱形が隙間なく並んで蜂の巣を埋めていく。
判子を押す位置は、二本の矢印に沿って何回ずつ動かしたかで指定できる。原点から $\mathbf{a}_1$ の向きに $m$ 回、$\mathbf{a}_2$ の向きに $n$ 回動かしたとき、Aの印が着く位置は
$$\mathbf{R} = m\,\mathbf{a}_1 + n\,\mathbf{a}_2 \tag{1}$$
となる。$m,n$ は整数で、逆向きに動かす回数は負の数にする。たとえば $m=1,n=-1$ なら $\mathbf{a}_1-\mathbf{a}_2$ となって、真横のAに着く。この二本を組み合わせれば、どのAサイトにも届く。
Aの印を押す位置 $\mathbf{R}$ を集めたものが、ブラベー格子である。二本の矢印 $\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2$ を、その基本ベクトルと呼ぶ。蜂の巣全体をどの $\mathbf{R}$ だけ動かしても、元の模様と重なる。この移動が格子並進だ。
判子に彫った二点の組は、基底と呼ぶ。格子点ごとに置く原子の組、という意味だ。そして、判子一回分の菱形が単位胞。一つの単位胞に、AとBが一つずつ入っている。
では、この判子の二辺 $\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2$ を、炭素間距離 $a$ を使って書き表してみよう。
判子の二辺は、原点のAから右上・左上のAへ向かう基本ベクトル $\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2$ だった。それぞれ、真上のBを経由して結合を二本たどると、その先のAに着く。このA→B→Aの矢印を足せば、判子の一辺を求められる。
$x$ 軸を右、$y$ 軸を上に取り、ベクトルを($x$ 成分、$y$ 成分)で書こう。グラフェンの炭素間距離は $a=0.142\,\mathrm{nm}$ である。
Aから隣の三つのBへ向かうベクトルを、$\boldsymbol{\delta}_1,\boldsymbol{\delta}_2,\boldsymbol{\delta}_3$ とする。長さはどれも $a$。正六角形の内角は $120°$ なので、三本は互いに $120°$ ずつ開いている。一本目を真上に取ると、
$$\boldsymbol{\delta}_1 = a\,(0,\ 1) \tag{2}$$
これを右へ $120°$ 回すと、成分は $a(\sin120°,\cos120°)$ になる。左へ回した場合は、$x$ 成分の符号が反対になる。$\sin120°=\tfrac{\sqrt3}{2}$、$\cos120°=-\tfrac12$ を入れると、残りの二本は
$$\begin{aligned} \boldsymbol{\delta}_2 &= a\!\left(\tfrac{\sqrt{3}}{2},\ -\tfrac{1}{2}\right) \\ \boldsymbol{\delta}_3 &= a\!\left(-\tfrac{\sqrt{3}}{2},\ -\tfrac{1}{2}\right) \end{aligned} \tag{3}$$
$\boldsymbol{\delta}_j$ はAからBへ向く矢印なので、BからAへ戻る矢印は、逆向きの $-\boldsymbol{\delta}_j$ になる。Aから真上のBへ $\boldsymbol{\delta}_1$ だけ進み、そこから右上のAへ $-\boldsymbol{\delta}_3$ だけ進む。二つを合わせた移動が $\mathbf{a}_1$ だ。後半を $-\boldsymbol{\delta}_2$ にすれば、$\mathbf{a}_2$ が得られる。
$$\begin{aligned} \mathbf{a}_1 &= \boldsymbol{\delta}_1 - \boldsymbol{\delta}_3 = a\!\left(\tfrac{\sqrt{3}}{2},\ \tfrac{3}{2}\right) \\ \mathbf{a}_2 &= \boldsymbol{\delta}_1 - \boldsymbol{\delta}_2 = a\!\left(-\tfrac{\sqrt{3}}{2},\ \tfrac{3}{2}\right) \end{aligned} \tag{4}$$
から、長さは $|\mathbf{a}_1|=a\sqrt{\tfrac34+\tfrac94}=\sqrt3\,a$ と求まる。これが三角格子の格子定数、つまり隣り合う格子点の間隔である。炭素間距離が $0.142\,\mathrm{nm}$ なのに対して、繰り返しの間隔は $0.246\,\mathrm{nm}$ と少し長い。
このページの $a$ は炭素間距離を表す。文献によっては、格子定数 $\sqrt3\,a$ の方を $a$ と書くこともあるので、式を見比べるときは、この記号の使い分けに注意が必要だ。
原子の並びは、$\mathbf{R}=m\mathbf{a}_1+n\mathbf{a}_2$ だけ動かすと元の並びに重なる。同じ移動で、波の山や谷はどれだけずれるのだろう。
水面に小さな浮きを二つ置き、まっすぐな波を送るとどうなるか。置く場所によって、二つが一緒に上下することもあれば、片方が上がるときにもう片方が下がることもある。この「波の一周期のどこにいるか」を表すのが位相で、二つの場所でのずれを位相差と呼ぶ。
山が平行な直線に並ぶ波を、平面波と呼ぶ。ある時刻の形を式にすると、$\cos(\mathbf{k}\cdot\mathbf{r})$ と書ける。$\mathbf{r}=(x,y)$ は位置で、cos の中身 $\mathbf{k}\cdot\mathbf{r}$ が位相にあたる。波数ベクトル $\mathbf{k}$ は山の線に垂直な矢印で、その長さは $2\pi/\lambda$。$\lambda$ は波長である。
$\mathbf{r}$ から $\mathbf{r}+\mathbf{R}$ へ移ると、位相は $\mathbf{k}\cdot\mathbf{r}$ から $\mathbf{k}\cdot(\mathbf{r}+\mathbf{R})$ に変わる。その差が $\mathbf{k}\cdot\mathbf{R}$ だ。これが $2\pi$ の整数倍なら、移動の前後で波の山も谷も重なる。それ以外では、原子の並びが重なっても波はずれる。
位相差 $\mathbf{k}\cdot\mathbf{R}$ を複素数 $e^{i\mathbf{k}\cdot\mathbf{R}}$ で表したものを、位相因子と呼ぶ。位相差が $2\pi$ の整数倍だけ違っても、位相因子は同じ値になる。
すると、波長や向きが違う二つの波でも、どの格子並進に対しても同じ位相因子を与えることがある。波数がどれだけ違えば、そうなるだろう。二つの波数の差を $\mathbf{G}=\mathbf{k}'-\mathbf{k}$ と書くと、
$$e^{i\mathbf{k}'\cdot\mathbf{R}} = e^{i(\mathbf{k}+\mathbf{G})\cdot\mathbf{R}} = e^{i\mathbf{k}\cdot\mathbf{R}}\,e^{i\mathbf{G}\cdot\mathbf{R}} \tag{5}$$
となる。どの格子並進でも二つの位相因子が一致するには、右側の $e^{i\mathbf{G}\cdot\mathbf{R}}$ がいつも1になればよい。
$$e^{i\mathbf{G}\cdot\mathbf{R}} = 1 \quad\text{for every } \mathbf{R} \tag{6}$$
波数の差 $\mathbf{G}$ を使って $\cos(\mathbf{G}\cdot\mathbf{r})$ を描くと、は「すべてのAに波の山が重なる」という条件になる。図で山の間隔を変えて、そろうところを探してみよう。
$\lambda=1.50a$ にして、山の線を $\mathbf{a}_2$ に沿わせると、各列に山が一本ずつ重なる。このときの右上向きの波数の差 $\mathbf{G}$ を、$\mathbf{b}_1$ とする。
図の波 $\cos(\mathbf{G}\cdot\mathbf{r})$ に $\mathbf{G}=\mathbf{b}_1$ を入れると、位相は $\mathbf{b}_1\cdot\mathbf{r}$ となる。位相差は波数と移動の内積なので、$\mathbf{a}_1$ だけ移ったときは $\mathbf{b}_1\cdot\mathbf{a}_1$ だ。図では、この移動で隣の山に着く。一周期分進むので、$\mathbf{b}_1\cdot\mathbf{a}_1=2\pi$ だ。一方、$\mathbf{a}_2$ だけ移っても同じ山の上にいるので、$\mathbf{b}_1\cdot\mathbf{a}_2=0$ になる。
波長をそのままに、山の線を $\mathbf{a}_1$ に沿う向きへ切り替え、このときの左上向きの $\mathbf{G}$ を $\mathbf{b}_2$ とする。今度は $\mathbf{a}_1$ だけ移ると同じ山の上にいて位相差は0、$\mathbf{a}_2$ だけ移ると隣の山に着いて $2\pi$ になる。二つの波での位相差を内積で書くと、
$$\begin{aligned} \mathbf{b}_1\cdot\mathbf{a}_1 &= 2\pi, & \mathbf{b}_1\cdot\mathbf{a}_2 &= 0, \\ \mathbf{b}_2\cdot\mathbf{a}_1 &= 0, & \mathbf{b}_2\cdot\mathbf{a}_2 &= 2\pi \end{aligned} \tag{7}$$
$\mathbf{b}_1$ の波で、山と山の間隔を半分にするとどうなるか。元の山の間に山が一本ずつ増え、すべてのAで山がそろうことは変わらない。波数の大きさは波長に反比例するので、この波では $\mathbf{G}=2\mathbf{b}_1$ になる。を満たす $\mathbf{G}$ は、$\mathbf{b}_1,\mathbf{b}_2$ のほかにもあるわけだ。
それらの位置関係を調べるために、$\mathbf{G}$ の横成分 $G_x$ と縦成分 $G_y$ を二つの軸にした座標平面を考える。この平面が逆空間、または波数空間で、各 $\mathbf{G}$ の先端を点として描く。$\mathbf{b}_1$ と $2\mathbf{b}_1$ なら、原点から同じ向きに並び、$2\mathbf{b}_1$ の点は二倍遠くなる。原点から遠い点ほど、対応する波の山の間隔は狭い。
この平面上で、を満たす $\mathbf{G}$ の位置に印をつけていくと、点が格子状に並ぶ。この点の集まりが逆格子で、原点から各点へ向かう矢印が逆格子ベクトルだ。先ほどの $\mathbf{b}_1,\mathbf{b}_2$ は、この格子の基本ベクトルにあたる。
波数の地図の印一つ一つに、Aすべてで山がそろう波が対応している。印から外れた位置を選ぶと、Aごとに波の山からずれていく。
判子を押す位置を $\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2$ で数えたように、逆格子の点も $\mathbf{b}_1,\mathbf{b}_2$ の整数倍を組み合わせてたどれる。整数 $m',n'$ を使って書くと、
$$\mathbf{G} = m'\mathbf{b}_1 + n'\mathbf{b}_2 \tag{8}$$
グラフェンの $\mathbf{b}_1$ を求めるには、$\mathbf{b}_1=(x,y)$ と置いて、の成分をの一行目に入れる。
$$\begin{aligned} a\!\left(\tfrac{\sqrt{3}}{2}\,x + \tfrac{3}{2}\,y\right) &= 2\pi \\ a\!\left(-\tfrac{\sqrt{3}}{2}\,x + \tfrac{3}{2}\,y\right) &= 0 \end{aligned} \tag{9}$$
を足すと $x$ の項が消えて、$3ay=2\pi$ から $y=\tfrac{2\pi}{3a}$ が求まる。に戻せば $x=\tfrac{2\pi}{\sqrt3\,a}$ が得られる。$\mathbf{b}_2$ も同じように求めると、
$$\begin{aligned} \mathbf{b}_1 &= \left(\frac{2\pi}{\sqrt{3}\,a},\ \frac{2\pi}{3a}\right) \\ \mathbf{b}_2 &= \left(-\frac{2\pi}{\sqrt{3}\,a},\ \frac{2\pi}{3a}\right) \end{aligned} \tag{10}$$
二本の長さは、どちらも $\tfrac{4\pi}{3a}$ である。この二本で作る逆格子も、三角格子になっている。
この逆格子ベクトルの分だけ離れた波数は、どの格子並進に対しても同じ位相因子を与える。こうして、$\mathbf{k}$ と $\mathbf{k}+\mathbf{G}$ を、位相のずれ方が同じ組としてまとめられる。
波数空間はどこまでも広がっている。ただ、逆格子ベクトルの分だけ離れた波数は、格子並進に対して同じ位相因子を持つのだった。同じ位相のずれ方を何度も数えずに済むように、各組から一つずつ波数を残したい。
たとえば、$\mathbf{b}_1$ の近くにある点 $\mathbf{k}$ から $\mathbf{b}_1$ を引くと、同じ組のまま原点の近くへ移せる。どの組でも原点にいちばん近い点を残すことにしたら、点はどこまでの範囲に集まるだろう。
まず、そのまま残す場合と、$\mathbf{b}_1$ を引く場合を比べよう。移した点から原点までの距離は、元の点から $\mathbf{b}_1$ までの距離と等しい。だから、原点より $\mathbf{b}_1$ に近ければ、引いた方が原点に近づく。両者の境界は、原点と $\mathbf{b}_1$ を結ぶ線分の真ん中を直角に横切る線、つまり垂直二等分線だ。
原点のすぐ周りには、六つの逆格子点がある。それぞれとの境界を引くと、正六角形が囲まれる。この内側では、どの逆格子点よりも原点が近いので、$\mathbf{G}$ の分だけ動かしても、これ以上は原点に近づけない。この範囲が第一ブリルアンゾーンだ。外側の波数も、適切な $\mathbf{G}$ を引けば、この六角形の中へ移せる。
ちょうど辺の上では二つ、角では三つの逆格子点までの距離が等しくなる。どれを選んでも同じ距離なので、境界には同じ組の波数が複数残っている。六つの角は見た目もそっくりだが、全部が同じ組なのだろうか。
右端の角を $K$ と呼び、逆格子ベクトルの分だけ動かしてみよう。$\mathbf{b}_2$ を足すと左上の角へ、$\mathbf{b}_1$ を引くと左下の角へ着く。一つおきに並ぶ三つの角がつながった。
反対側の角 $-K$ から出発すると、$\mathbf{b}_1$ を足せば右上、$\mathbf{b}_2$ を引けば右下へ着く。こちらは残りの三つだ。$\mathbf{b}_1,\mathbf{b}_2$ を何本ずつ組み合わせても $K$ から $-K$ へは届かず、この二組は分かれたままになる。最初の三つを $K$ 点、残りの三つを $K'$ 点と呼ぶ。
一つの六角形に、二種類の角があるわけだ。中心 $\Gamma$ や、$M$ と呼ばれる辺の中点も、波を比べる目印になる。それぞれの点に対応する波を蜂の巣に重ねると、どんな違いが見えるだろう。特に、$K$ と $K'$ の違いは、原子の上にどう現れるのだろうか。
辺の中点 $\mathbf{M}$ は、原点 $\Gamma$ と $\mathbf{b}_1$ のちょうど中間なので、$\mathbf{M}=\tfrac12\mathbf{b}_1=\left(\tfrac{\pi}{\sqrt3\,a},\tfrac{\pi}{3a}\right)$ だ。右端の角 $\mathbf{K}$ は、$\Gamma$, $\mathbf{b}_1$, $-\mathbf{b}_2$ の三点から同じ距離にある。この三点が作る正三角形の重心を取ると、
$$\mathbf{K} = \frac{\mathbf{0} + \mathbf{b}_1 - \mathbf{b}_2}{3} = \left(\frac{4\pi}{3\sqrt{3}\,a},\ 0\right) \tag{11}$$
と求まる。反対側の角は、座標の符号を反転させればよい。
$$\mathbf{K}' = -\mathbf{K} = \left(-\frac{4\pi}{3\sqrt{3}\,a},\ 0\right) \tag{12}$$
向かい合う角が別の組に属することも、座標で調べられる。$K$ から $K'$ への移動を $\mathbf{b}_1,\mathbf{b}_2$ で書くと、
$$\mathbf{K}'-\mathbf{K}=-2\mathbf{K}=-\frac23\mathbf{b}_1+\frac23\mathbf{b}_2 \tag{13}$$
になる。係数の $-\tfrac23$ と $\tfrac23$ は整数ではないので、この移動は逆格子ベクトルにならない。六つの角は、$K$ と $K'$ の二種類の組に分かれる。
区間を選ぶと、六角形の中のどこを測るかが赤い線で示される。数値は、炭素間の結合長 $a=0.142\,\mathrm{nm}=1.42\,\text{Å}$ を使っている。
| 区間 | 式 | nm⁻¹ | Å⁻¹ |
|---|---|---|---|
| Γ–M | $\frac{2\pi}{3a}$ | 14.75 | 1.475 |
| Γ–K | $\frac{4\pi}{3\sqrt3\,a}$ | 17.03 | 1.703 |
| M–K | $\frac{2\pi}{3\sqrt3\,a}$ | 8.52 | 0.852 |
| 隣り合う K–K′(一辺) | $\frac{4\pi}{3\sqrt3\,a}$ | 17.03 | 1.703 |
| K–K(同じ組の角) | $\frac{4\pi}{3a}$ | 29.50 | 2.950 |
| 向かい合う K–K′ | $\frac{8\pi}{3\sqrt3\,a}$ | 34.06 | 3.406 |
| 隣り合う逆格子点 | $\frac{4\pi}{3a}$ | 29.50 | 2.950 |
| b₁ と b₂ の先端の間 | $\frac{4\pi}{\sqrt3\,a}$ | 51.09 | 5.109 |
| 向かい合う辺の間隔 | $\frac{4\pi}{3a}$ | 29.50 | 2.950 |
六角形の面積は $\dfrac{8\pi^2}{3\sqrt3\,a^2}$ で、約 $753.6\,\mathrm{nm}^{-2}=7.536\,\text{Å}^{-2}$ になる。
| 点・ベクトル | $(k_x,k_y)$ |
|---|---|
| Γ | $(0,0)$ |
| M | $\left(\frac{\pi}{\sqrt3\,a},\frac{\pi}{3a}\right)$ |
| K · 0° | $\left(\frac{4\pi}{3\sqrt3\,a},0\right)$ |
| K · 120°, 240° | $\left(-\frac{2\pi}{3\sqrt3\,a},\pm\frac{2\pi}{3a}\right)$ |
| K′ · 180° | $\left(-\frac{4\pi}{3\sqrt3\,a},0\right)$ |
| K′ · 60°, 300° | $\left(\frac{2\pi}{3\sqrt3\,a},\pm\frac{2\pi}{3a}\right)$ |
| $\mathbf b_1,\mathbf b_2$ | $\left(\pm\frac{2\pi}{\sqrt3\,a},\frac{2\pi}{3a}\right)$ |
距離と座標は、の基本ベクトルから求めた。
地図の中心 $\Gamma$ から、辺の $M$、角の $K$ へと点を動かしてみよう。原点から遠ざかるほど波長が短くなり、点を回すと波の向きが変わる。蜂の巣に重ねると、原子ごとの位相にも違いが現れる。
$K$ から向かい側の $K'$ へ切り替えると、縞模様を保ったまま、列に沿う位相の矢印の回り方が逆になる。
原子の位置から、蜂の巣の繰り返しと波の位相の関係が分かった。では、この中を動く電子は、どんなエネルギーを持つのだろう。冒頭の「質量を持たない粒子のように振る舞う」という性質を理解するには、エネルギーが波数とともにどう変わるかを調べる必要がある。
各原子の電子軌道を出発点に、原子の間を電子が移る働きを取り入れるのが、tight-binding(TB)法だ。これを蜂の巣に当てはめて、波数ごとのエネルギー、つまりバンド構造を求める。$K$ と $K'$ の近くでその形を調べると、電子の不思議な振る舞いの理由が見えてくる。