炭素原子に束縛された電子のエネルギーは、飛び飛びの値を取る。その原子をたくさんつないで一枚のシートにしたら、どうなるだろう。電子の波は隣の原子にも広がり、取れるエネルギーには幅が生まれる。この帯がバンドだ。帯どうしの隙間や接し方は、物質の電気の流れ方に関わっている。グラフェンでこれを計算する手がかりは、蜂の巣の中にある。繰り返しの単位はAとBの二原子で、それぞれが三つの隣と結びつく。このつながりは、どんなバンドを生むだろう。各原子の電子の波と、隣との結びつきから組み立てるtight-bindingモデルで調べてみよう。
グラフェンの電子の状態を調べるには、まず各原子のどの軌道が関わるかを知りたい。原子軌道は、原子の周りに広がる電子の波の形を表す。炭素には結合に関わる電子が四つあり、グラフェンでは三つが面内の強い結合を作る。残る一つが入るのは、シートの上下に広がる$p_z$軌道だ。
電流に関わるのは、電子で埋まった状態と空いた状態の境目付近だ。グラフェンでは、この付近の状態を主に $p_z$ 軌道が作る。面内の結合を担う埋まった状態は、もっと低いエネルギーにある。そこで、炭素一個につき一つある $p_z$ 軌道を組み合わせて、電流に関わる電子の状態を表す。
隣り合う原子の軌道は同じ空間にも広がり、互いに結びつく。原子から遠ざかると軌道の裾は小さくなり、遠い原子との直接の結びつきは一般に弱くなる。いちばん近い原子同士の結合を残す最近接近似で考えよう。
まず、隣り合うAとBの一本の結合だけを残してみよう。各原子の近くに局在する$p_z$軌道の波動関数を $\varphi_A,\varphi_B$ とする。このモデルで結合を切ると、それぞれのエネルギーは同じ値に決まる。この共通の軌道エネルギーを、基準の0に取る。
結合があると、初めにAだけに局在していた電子も、時間がたつとB側で見つかる確率が生じる。結合した二原子の状態を表すには、両方の軌道が必要だ。係数を未知数として、電子の波動関数を
$$\psi=c_A\varphi_A+c_B\varphi_B.$$
と表そう。この表し方が線形結合だ。係数は複素数の確率振幅で、$c_j=|c_j|e^{i\theta_j}$ と書けば、各軌道が加わる大きさ $|c_j|$ と位相 $\theta_j$ を表せる。
エネルギーを測ると必ず同じ値 $E$ が得られる状態をエネルギーの固有状態と呼ぶ。その波動関数が満たす条件が、シュレーディンガー方程式だ。
$$H\psi=E\psi.$$
$H$ は、電子の取り得るエネルギーと波動関数の時間変化を定めるハミルトニアンだ。を満たす固有状態では、時間とともに変わるのは、二つの係数に共通する位相だけになる。大きさと互いの位相差が保たれるので、電子を見つける確率の分布も変わらない。
この二軌道モデルのハミルトニアンを $H_2$ とし、結合を表す係数を $-t$($t>0$)と置こう。各軌道への作用は、
$$\begin{aligned}H_2\varphi_A&=0\varphi_A-t\varphi_B,\\H_2\varphi_B&=0\varphi_B-t\varphi_A.\end{aligned}$$
と書ける。元の軌道に掛かる0が結合前の軌道エネルギーで、相手の軌道の項がAとBの結合を表す。その係数 $-t$ がホッピング行列要素で、エネルギーの単位を持つ。
$\varphi_A$ だけでは、$H_2$ を作用させた左辺に $\varphi_B$ が現れ、右辺の $E\varphi_A$ と一致しない。そこで、AとBを入れ替えた後も元の組み合わせに比例する和と差を試そう。
$$\begin{aligned}H_2(\varphi_A+\varphi_B)&=-t(\varphi_A+\varphi_B),\\H_2(\varphi_A-\varphi_B)&=+t(\varphi_A-\varphi_B).\end{aligned}$$
位相をそろえた和 $\varphi_A+\varphi_B$ と、逆にした差 $\varphi_A-\varphi_B$ は、どちらも $H\psi=E\psi$ を満たす。この二つが結合した二原子の固有状態で、エネルギーはそれぞれ $-t,+t$ だ。結合がなければ、ともに0だったエネルギーが二つに分かれ、その間隔は$2t$だ。$t$ が大きいほど、この二つの組み合わせのエネルギー差が大きくなる。
グラフェンの蜂の巣では、一つのAに三つのBが隣り合っている。残り二本の結合も戻して、隣をB₁、B₂、B₃と呼ぼう。整ったシートでは三本の結合が同等なので、同じ $t$ を使う。
三つの軌道 $\varphi_{B_1},\varphi_{B_2},\varphi_{B_3}$ に掛かる係数を $c_1,c_2,c_3$ と書く。結晶に広がる電子の波動関数は、
$$\begin{aligned}\psi={}&c;_A\varphi_A+c_1\varphi_{B_1}\\&+c_2\varphi_{B_2}+c_3\varphi_{B_3}+\cdots.\end{aligned}$$
点々には、その先の原子の軌道もすべて含まれる。結晶全体のハミルトニアンを $H$ として、$H\psi=E\psi$ の左辺に、この $\psi$ を入れてみよう。各軌道の項に $H$ を作用させて足すと、
$$\begin{aligned}H\psi&=H\bigl(c_A\varphi_A+c_1\varphi_{B_1}+c_2\varphi_{B_2}+c_3\varphi_{B_3}+\cdots\bigr)\\&=H(c_A\varphi_A)+H(c_1\varphi_{B_1})\\&\quad+H(c_2\varphi_{B_2})+H(c_3\varphi_{B_3})+\cdots.\end{aligned}$$
まず、中央のAの軌道 $\varphi_A$ に掛かる項を集めよう。最近接近似では、このAと直接結びつくのはB₁・B₂・B₃なので、三つのBからの寄与を調べる。
B₁→Aの結合によって、$H\varphi_{B_1}$ には $-t\varphi_A$ の項が現れる。$\psi$ に含まれる $c_1\varphi_{B_1}$ については、作用させた結果にも同じ $c_1$ が掛かる。
$$\begin{aligned}H(c_1\varphi_{B_1})&=c_1H\varphi_{B_1}\\&=-tc_1\varphi_A+\cdots.\end{aligned}$$
B₂とB₃の項からも、それぞれ $-tc_2\varphi_A$、$-tc_3\varphi_A$ が現れる。同じ $\varphi_A$ に掛かる係数をまとめると、三つの寄与の足し算になる。A自身の軌道から来る分は $0\times c_A$ なので、
$$H\psi=-t(c_1+c_2+c_3)\varphi_A+\cdots.$$
右辺の $E\psi$ では、すべての係数が $E$ 倍される。各原子の軌道に掛かる係数が、左右でそれぞれ一致するのが、$H\psi=E\psi$ の条件だ。Aの軌道では右辺の係数が $Ec_A$ なので、
$$-t(c_1+c_2+c_3)=Ec_A.$$
次は、同じ $H\psi=E\psi$ の $\varphi_{B_1}$ に掛かる係数を比べよう。B₁に隣り合うのは、中央のAと、さらに二つのA原子だ。その二つをA₂・A₃、軌道の係数を $c_{A_2},c_{A_3}$ と書くと、
$$-t(c_A+c_{A_2}+c_{A_3})=Ec_1.$$
となる。B₂やB₃でも、それぞれに隣り合う三つのAを使って、ができる。$E$ は結晶に広がる一つの電子状態のエネルギーなので、で共通だ。これらを同時に満たす係数の並びを求めよう。
前節では、原子ごとに係数を置き、を作った。すべての係数を別々に求める代わりに、結晶の繰り返しを使おう。
周期的な結晶では、格子の繰り返しだけずらすと位相だけが変わる、ブロッホ波として電子の状態を調べられる。この位相の変わり方を指定するのが、波数 $\mathbf k$ だ。あるAの係数が分かれば、格子をどれだけずらすかに応じた位相を掛けて、ほかのAの係数も書ける。Bどうしも同じだ。一つの波数について、A用とB用の二つの係数を求めればよくなる。
中央のAを原点に置くと、三つのBの位置は、結合の矢印 $\boldsymbol\delta_1,\boldsymbol\delta_2,\boldsymbol\delta_3$ になる。三つのBは格子の並進で互いに重なる位置なので、その係数は、共通する部分を $u_B$ として、
$$\begin{aligned}c_1&=u_Be^{i\mathbf k\cdot\boldsymbol\delta_1},\\c_2&=u_Be^{i\mathbf k\cdot\boldsymbol\delta_2},\\c_3&=u_Be^{i\mathbf k\cdot\boldsymbol\delta_3}.\end{aligned} \tag{1}$$
と書ける。$u_B$ は大きさと位相を含む複素数の係数で、指数関数の部分は大きさ1の位相因子だ。したがって、三つの係数の大きさは共通して $|u_B|$ になる。A側にも共通する係数 $u_A$ があり、中央のAは原点なので、$c_A=u_A$ だ。
下の図では、波数を第一ブリルアンゾーンの中心 $\Gamma$ から右端の角 $K$ へ動かせる。波数が横向きなので、真上のB₁に付く位相は0、右のB₂と左のB₃に付く位相は、それぞれ $\theta$ と $-\theta$ になる。
原子に重ねた山と谷は、$u_B$ をくくった後の位相因子の実部 $\cos(k_xx)$ を表す。複素平面では、同じ位相因子を長さ1の矢印として表している。三本を先端から順につなぐと、その和が求まる。
$\Gamma$ では三本とも同じ向きで、和は3だ。波数を動かすと矢印の向きが分かれ、その和も変わっていく。この和をに入れよう。三つの係数から $u_B$ をくくると、
$$\begin{gathered}c_1+c_2+c_3\\=u_B\bigl(e^{i\mathbf k\cdot\boldsymbol\delta_1}+e^{i\mathbf k\cdot\boldsymbol\delta_2}+e^{i\mathbf k\cdot\boldsymbol\delta_3}\bigr).\end{gathered} \tag{2}$$
括弧の中に残った、三方向の位相因子の和を構造因子 $f(\mathbf k)$ と呼ぼう。
$$f(\mathbf k)=\sum_{j=1}^3e^{i\mathbf k\cdot\boldsymbol\delta_j}. \tag{3}$$
これで $c_1+c_2+c_3=u_Bf(\mathbf k)$ と書ける。には、この和と $c_A=u_A$ を代入する。
次はを作ろう。B₁の位置は $\boldsymbol\delta_1$ で、そこから隣のAへ向かう矢印は $-\boldsymbol\delta_j$ $(j=1,2,3)$ だ。出発点の位置に移動の矢印を足すと、各Aの位置は $\boldsymbol\delta_1-\boldsymbol\delta_j$ になる。$j=1$ なら位置は0で、原点のAに戻る。
この位置を位相に入れるので、各Aの係数は $u_Ae^{i\mathbf k\cdot(\boldsymbol\delta_1-\boldsymbol\delta_j)}$ だ。一方、B₁自身の係数は、の $c_1=u_Be^{i\mathbf k\cdot\boldsymbol\delta_1}$ になる。に、これらの係数を入れると、
$$\begin{gathered}E u_Be^{i\mathbf k\cdot\boldsymbol\delta_1}\\=-t\sum_{j=1}^3u_Ae^{i\mathbf k\cdot(\boldsymbol\delta_1-\boldsymbol\delta_j)}\\=-t u_Ae^{i\mathbf k\cdot\boldsymbol\delta_1}\sum_{j=1}^3e^{-i\mathbf k\cdot\boldsymbol\delta_j}.\end{gathered}$$
では、三つの項に共通する $u_Ae^{i\mathbf k\cdot\boldsymbol\delta_1}$ をくくり出した。残った和は、の位相の符号をすべて逆にしたものなので、複素共役 $f^*(\mathbf k)$ になる。両辺の共通因子 $e^{i\mathbf k\cdot\boldsymbol\delta_1}$ を取り除き、と並べると、
$$\begin{aligned}Eu_A&=-tf(\mathbf k)u_B,\\Eu_B&=-tf^*(\mathbf k)u_A.\end{aligned} \tag{4}$$
§01では、二つの軌道を一本の結合 $-t$ で結ぶと、重ね方に応じてエネルギーが分かれた。いまAとBの係数を結ぶのは、三方向の寄与をまとめた $-tf(\mathbf k)$ だ。これは、エネルギーをどれだけ分けるのだろう。
前節のの両辺に $E$ を掛け、出てきた $Eu_B$ をで置き換えると、
$$\begin{aligned}E^2u_A&=-tf(Eu_B)\\&=t^2ff^*u_A=t^2|f|^2u_A.\end{aligned}$$
Bから始めても、$u_B$ について同じ関係が得られる。電子の状態を表すには、$u_A,u_B$ の少なくとも一方がゼロでないので、$E^2=t^2|f|^2$ が必要だ。ここでは、複素数とその複素共役の積が、大きさの二乗になることを使った。したがって、
$$\boxed{E_\pm(\mathbf k)=\pm t|f(\mathbf k)|}. \tag{5}$$
二つのエネルギーには、AとBの成分の異なる重ね方が対応する。たとえば、三方向の位相がそろう $\Gamma$ では $f=3$ なので、から、
$$\begin{aligned}E=-3t&:\quad u_B=u_A,\\E=+3t&:\quad u_B=-u_A.\end{aligned}$$
この $\Gamma$ では、AとBの成分を同じ大きさ・同じ位相で重ねるのが下側の固有状態、同じ大きさ・逆の位相で重ねるのが上側の固有状態だ。§01の二軌道で見た和と差が、結晶全体に広がる状態として現れている。
波数を変えながら、それぞれの固有エネルギーをつないだものが、二本のバンドになる。下側が$\pi$バンド、上側が$\pi^*$バンドだ。
二本の間隔は $2t|f(\mathbf k)|$。一本あたりの結合 $t$ は同じでも、三方向の位相因子の和によって、エネルギーの分かれ方が変わる。和の大きさが最大の $\Gamma$ では間隔は $6t$、和が0になる波数では二本が接する。
二本のバンドが接するのは、$f(\mathbf k)=0$ となる波数だ。下の図で六角形の中の波数を動かし、位相因子の和が0になる位置を探してみよう。
右端の角 $\mathbf K=(4\pi/(3\sqrt3a),0)$ では、三つの位相は $0,2\pi/3,-2\pi/3$ になる。矢印の向きが120°ずつ違うため、先端から順につなぐと正三角形が閉じる。式でも、
$$\begin{aligned}f(\mathbf K)&=1+e^{i2\pi/3}+e^{-i2\pi/3}\\&=1+2\cos\frac{2\pi}{3}=0.\end{aligned} \tag{6}$$
となる。この打ち消しを、に戻してみよう。$H\psi$ の中で、同じAの軌道に掛かっていた三つの寄与は、
$$\begin{gathered}-t(c_1+c_2+c_3)\varphi_A\\=-tu_Bf(\mathbf K)\varphi_A=0.\end{gathered}$$
になる。三つのB成分から生じる、同じA軌道への寄与が打ち消し合っている。B側でも $f^*(\mathbf K)=0$ となる。そのため、この波数では二つの固有エネルギーがともに0になり、バンドが接する。
向かい側の $\mathbf K^{\prime}=-\mathbf K$ では、三つの位相の符号が反転し、やはり和は0になる。六つの角は、逆格子ベクトルで結ばれた三つずつの二組に分かれ、その代表が $K$ と $K^{\prime}$ だ。いずれの角もバンドの接点になる。
炭素間距離を $a$ とすると、結合の矢印は $\boldsymbol\delta_1=a(0,1)$、$\boldsymbol\delta_{2,3}=a(\pm\sqrt3/2,-1/2)$ だ。これをに入れると、
$$f=e^{iak_y}+2e^{-iak_y/2}\cos\frac{\sqrt3ak_x}{2}$$
$$\begin{aligned}|f|^2={}&1+4\cos^2\frac{\sqrt3ak_x}{2}\\&+4\cos\frac{\sqrt3ak_x}{2}\cos\frac{3ak_y}{2}.\end{aligned}$$
$f=0$ の条件は $e^{i3ak_y/2}=-2\cos(\sqrt3ak_x/2)$。右辺が実数なので、第一ブリルアンゾーン内で候補になる高さは $k_y=0,\pm2\pi/(3a)$ に限られる。高さ0では $k_x=\pm4\pi/(3\sqrt3a)$、上下の高さでは $k_x=\pm2\pi/(3\sqrt3a)$ が解になる。これが六つの角で、内側には接点がない。
座標軸は幾何のページに合わせている。
接点から離れると、二本の間隔はどう変わるだろう。波数空間で、中心 $\Gamma$ から角の $K$、辺の中点 $M$ を通り、$\Gamma$ へ戻る経路を選ぼう。
下のグラフでは、横軸を、この経路に沿って進んだ波数空間での距離に取っている。縦軸は、その波数での二つのエネルギーを $t$ で割った値だ。小さな六角形には、グラフで調べている波数の位置を示している。
$\Gamma$ で $\pm3t$ にあった二本は、$K$ では0で接し、$M$ では $\pm t$ に離れる。最後の $\Gamma$ は、波数空間の出発点へ戻ったところだ。
今度は、この経路だけでなく、六角形の中のすべての波数にエネルギーの高さを付けてみよう。横の二軸を $k_x,k_y$、高さをエネルギーに取ると、下側のバンドは一枚の面になり、上側のバンドはもう一枚の面になる。
二枚の面が接するのは、$K$ と $K^{\prime}$ に対応する六つの角だ。三方向の結合と、波数による位相の違いから、グラフェンのバンド全体の形が得られた。
二本のバンドから、電子が取れるエネルギーが分かった。グラフェンに少しエネルギーを与えたら、電子はどの空いた状態へ移れるだろう。それを知るには、電子が入っている状態と、空いている状態を区別したい。まず温度0で、電子をエネルギーの低い状態から順に入れていく。
周期的な結晶の状態数を、単位胞100個分で数えよう。ここではまず、スピンを区別せず、電子の波の形を一状態として数える。
AとBの原子は100個ずつあるので、$p_z$ 軌道は計200個だ。結合によって波の形とエネルギーは変わるが、この200個の軌道から表せる独立な状態の数は、200個のままだ。
一つの波数には、上下のバンドに対応する状態が一つずつある。接点でエネルギーが同じになっても、独立な二状態として数える。したがって200状態は二本に等分され、各バンドに100状態ずつある。
スピンを含めると、同じ波の形には、スピンの異なる電子が一個ずつ、計二個入れる。下のバンドには、100状態に二個ずつ、計200個の電子が入る。
一方、電荷を加えていない中性のグラフェンでは、炭素一個につき $p_z$ の電子が一個ある。単位胞100個分なら、電子は200個だ。これは、下のバンドをちょうど満たす数になる。
したがって、温度0では $E<0$ の状態が埋まり、$E>0$ の状態は空になる。埋まった状態と空いた状態の境目のエネルギーをフェルミエネルギーといい、ここでは $E_F=0$ だ。立体図で $E=0$ の面を表示すると、バンドと出会うのは $K$ と $K^{\prime}$ に対応する接点になる。このように、埋まったバンドと空のバンドが点で接する中性のグラフェンは、半金属と呼ばれる。
接点に近い波数では、下の状態と上の状態のエネルギー差 $2t|f(\mathbf k)|$ が小さくなる。つまり、埋まった状態のすぐ上に、空いた状態がある。少しのエネルギーで電子が移れる先を調べるには、$K$ と $K^{\prime}$ の近くを見ることになる。
三つの隣からの寄与が打ち消し合い、$K$ 点で二本のバンドが接した。立体図を見ると、二枚の面は円錐の先端のようにとがって接している。
この形を詳しく調べると、接点の近くの電子が「質量のない粒子のように振る舞う」という話が出てくる。炭素原子を蜂の巣に並べたことから、なぜそんな性質が生まれるのだろう。次は、この接点を拡大して、バンドの形と電子の振る舞いのつながりをたどってみよう。